Ry

了 / 観たものについて書く。公共劇場が好き。

2021年5月

ダムタイプ『S/N』(1995/スパイラルホール・配信)
 Visual AIDS・Normal Screenによる配信。
 自分を記号化するものに抗いたい、自己の中にあるノイズを失いたくない…という言葉に肯く一方で、私は「捨てたい」と語られたもの…例えば性別や国籍、権威、財産、IDに紐づくあらゆる概念…を、舞台上と同じような切実さで失いたいと思っているだろうか、ということを考えていた。
 舞台上で化粧するの、ふつう舞台の俎上に上げない動作を議題にしているようで好きだ。*1ぐねぐね動く唇。


・鮭スペアレ『鮭スペアレ版 リチャード三世』(2021 /銕仙会能楽研修所・配信)
 「動作が意外とデフォルメっぽいな...」という感想を持ったんだけど、それは何に由来するのだろう。普段見慣れた身体所作から距離のある能の動きは、まるでデフォルメしたかのように目に映るのかもしれない。
 「声を遊ぶもくろみ」を正しく汲めているかは分からないが、朗々とよく通る声が坪内訳の古めかしい言い回しによく合っている。あとメイクが良くて、頬や瞼に引かれたオレンジ色が、肌馴染みのよい隈取りのようにも見えた(芸能違い)。


・『WITH/lations by IdolTimePripara』(2021/中野サンプラザホール・配信)
https://ry-kun.hatenablog.com/entry/2021/05/14/205327
 はい。


池袋演芸場
 ちゃんとした寄席は初めてだったかもしれない。100席に満たない座席のうち、演者と同じ目線以上の高さになるのが後ろ3列くらいで、前列は舞台の下に潜り込んでいくような心地すらする。何も考えず陣取って、後半「これが本当の高座ってワケね…」と首を凝らせていった。馬鹿?
 今原亭乃ゝ香氏の「権助提灯」と古今亭菊千代氏の「たらちね」が特に印象的だった。「権助提灯」のタイトルロール(タイトルロールって言う?)の権助は主人相手に失礼な口を利くヘラヘラした男なんだけど、弁が立つから聞き手にとっては魅力的に映る。「たらちね」はパキパキした喋り方と表情の引き込みが良くて、登場人物の愛嬌がこちらもダイレクトに伝わってくる。
 あと奇術のダーク広和氏が横浜の百貨店屋上にあったビアガーデンでバイトしてた時の話も妙に記憶に残っている。


・『Pretty series 10th Anniversary Pretty Festival』(2021/幕張イベントホール・配信)
 全員型違いお揃いの白衣装よかった~!オタクは型違いお揃いが好き。みちるがレースのケープにオーガンジーみたいな生地を重ねた後ろ下がりのドレスを合わせているのと、しゅうかのロング丈ドレスの足元にペールゴールドのヒールが見えるのが特に楽しかった。あと高瀬がジャケットプレイしてるときに気づいたけど、男プリのジャケットも光沢のある生地で良かった。デコラティブなのにダンス映えするライブ衣装も変わらず好き。
 一番繰り返し観たのがソルル・ルルナのライブで、曲の立体性がよりくっきりしていた。レーザーライトとバチバチの音が満ちた、ある種造りこまれた空間に、ルルナの顔と声が柔らかく浮かび上がっているのが対照的で美しかった。


劇団青年座アルビオン:白亜の地イングランド』(俳優座劇場)
 俳優座劇場は座席規模に対してけっこう舞台幅があるように見え、ピクチャレスクな英国庭園という(物語上の)舞台とフィットしていた。
 主人公は庭付き屋敷を買い取った女性で、大企業?の経営者らしい。屋敷の仕事も経営の論法をもって取り仕切り、しきりに前進することを己に言い聞かせている。後々には他の登場人物から自分の行為が無価値・無駄だったと指摘され、無理やり価値づけするような、要するに耐えられない素振りを見せた。そんな実利的な人間が、一方で過去の美しい記憶の再現に拘泥するあまりその実利の道を踏み外しかけるの、(元戯曲の意図とは別に)2021年初夏に上演する文脈が生じていた。
 細部ではヘッドホンの小道具としての使い方が端的かつ鮮烈だった(一回外す=音楽が止まるというのを見せてからの…)。あと女性人物の衣装に幅とそれぞれのリアリティがあり、特にクリスティーナの造形はかなり好き。

*1:滝沢歌舞伎の話はしてないんだよ