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了 / 観たものについて書く。公共劇場が好き。

東京ステーションギャラリー「木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ」

 野生動物を主な題材とし、阿寒湖畔を拠点に活動した彫刻家、藤戸竹喜氏の展示。

 展覧会の前半にあたる3階展示室は、プロローグ→1970-80頃制作のジオラマ的作品→藤戸氏が収集した木彫り熊コレクションという構成になっている。

 「鹿を襲う狼」(1978/クルミ)は、跳ね上がったシカの腰から背に沿って年輪の模様が下ろされている。彫刻の表面はなめらかに処理されている…ように見えるが、近づいてよく見ると、こまかく角度を入れて毛並みが表現されているのが分かる。

 3階最後の木彫り熊コレクションは、ひとつひとつの作品がカラフルな底面のボックスに入れられ、藤戸氏の作品との区別が図られている。章キャプションで木彫り熊の地域的広がり、系統的潮流に言及しているのにもかかわらず、展示そのものは「作者不詳、制作年不詳」の作品たちを、藤戸氏の「作家性」との対比に甘んじさせている印象はある(ただ、この点は展覧会自体に帰するというより、北海道外でのアイヌ彫刻展示の蓄積によって補完していくべき話題である)。それにしても、毛を柔らかめに彫る派から、毛並みを一本一本立てて表現する派まで多様なコレクションである。

 展覧会後半の2階展示室は、海の生物という、それまでからは目新しいモチーフで始まる。「ラッコ、潜る」(1993年、エンジュ)は、台座部分の木肌の表面にぷすぷすと小さい穴を穿っており、ひとつづきの素材の上に、海底の岩のつるつる感と砂のざらつきという、異なる質感を与えている。

 ところで藤戸氏の大規模展覧会といえば、「現れよ。森羅の生命:木彫家藤戸竹喜の世界(2017年、札幌芸術の森美術館)」(以下札幌展)が記憶に新しい。

 札幌展では展示室全体が明るく、木という素材の温度感が強調される照明だったが、今回の展示室、特に2階は空間の特色として暗い。そこに重たい照明が合わさることで、2階展示室に集中して配置された大型作品の重量感とドラマチックな毛並みがより強調される趣向となっていた。

 連作「狼と少年の物語」(2016-2017年)は、札幌展ではスペースの関係上やや駆け足な印象が否めなかったが、本展では展示室の廊下状の部分を活かしてじっくりと展示されている。彫刻の側面に露出した、劈開面のような年輪が記憶に残っている。