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了 / 観たものについて書く。公共劇場が好き。

FESTA松本(と、パルコde美術館)

 長野県松本市で開催された演劇フェスティバル「FESTA松本」の感想。...なんだけど、期間中三本しか観ることができていない。もっと観たかった。

「A WALK IN THE WOODS:森の中で」(まつもと市民芸術館シアターパーク)
 冷戦時代、核軍縮条約の締結のため、米ソ各国からスイスに派遣された交渉人ふたりが、交渉のテーブルから離れ、記者団の目から逃れた「森」の中で繰り広げる対話劇。二人芝居である。シアターパークというのは劇場のロビー?ホワイエ?にあたる空間なんだけど、その一隅を上演空間として利用している。
 戯曲じたい面白いし、色々な俳優の組み合わせで観たいという需要が高そうだから、てっきり二人芝居界ではメジャーな作品かと思ったら、実は今回キャストでもある近藤隼氏・草光純太氏の2020年の制作のために翻訳されたものらしく、ちょっと意外だった。(参考:TCアルプの近藤隼と草光純太が自主企画で『A WALK IN THE WOODS』を上演~万里紗が翻訳を手がけるアメリカとソ連の冷戦時の物語 | SPICE - エンタメ特化型情報メディア スパイス この記事、作中でも印象的な「ちゃらちゃら」というタームの翻訳にまつわる話があって面白かった。)
 真面目な理想主義者だが激していらんこと言う傾向にある男と、底の見えないのらりくらりとした男。ぶつかる者と迎える者。コミカル?かと思われた挿話が、実はやがて疲弊する途上にある人間の姿を示す。協同と挫折と最後に箱に残った親愛。ある局面でぱっと躍動的な動きが挿入されて空気が変わる場面があり、別に空気が変わったからといって状況は変わらないのまで含めて好きだった。


「オレたちの夏の夜の夢」(まつもと市民芸術館小ホール)
 シェイクスピア「夏の夜の夢」の地方巡回公演当日、天候トラブルに見舞われた影響で俳優も舞台装置も現地入りできず、劇場にいるのは舞台スタッフ6名のみ、このメンツで上演するしかないのか?
 舞台裏ドタバタコメディっぽい方向にまとまるかと思いきや、どちらかというと夏夜じたいが「素人芝居」の話でもあるというリンクが主軸にある。劇中劇の素人芝居の当事者たる職人たちは「演劇の想像力」をまるっきり信じてなくて笑うんだけど、その流れを引き継いでおきながら、例えば中盤で観客たちの拍手を煽ったりするような熱は引きずらず、スッ…と想像の領域に突き放されて浮遊するような心地が残る。
 キャスト全員声から振る舞いから闊達で良かった。パック(武居卓氏)はいたずら者というよりは、うだつのあがらない中間管理職っぽい描き方で面白い。本当ならここにあるはずだった舞台美術の美しさを滔々と語り出すところ、本題ではないと分かりつつかなりグッときた…。


「ワタシの青空 西遊記異聞」(信毎メディアガーデン)
 大人たちを妖怪に例え、昼を嫌い夜を親しむ少女たる「三蔵」、電柱から電柱までちょこまかと跳び移る、少年の姿をした「悟空」(中田翔真氏が異様なはまり役だった)、二人で大人の盛り場にするりと入り込んだ夜、突如雪崩れ込む大捕り物の最中、三蔵の手を悟空ががっちりと取る…の冒頭シークエンスがかーなり良く、この翻案の冒険活劇ものとしてもう一本見たいんだけど???と思ったが、まあ贅沢なことである。


 幕間の時間に松本PARCOで開催中の「パルコde美術館」にも寄った。松本市美術館が改修休館中のサテライト?美術館らしく、草間彌生を目玉として長野県に関わりのある現代の美術作家の作品が、テナントの空きが目立っていた松本PARCOのワンフロアを使って展示されている。
 正味鑑賞者に阿ったなと感じるところもなくはないが、限られたスペースだろうと作品のスケール感を潰さずに提示しきろうとしているのが好感が持てた。
 千田泰広の屋外作品が特に好きだった。鑑賞者は屋上に置かれた箱に入る。中は真っ暗...と思いきや、実には箱には無数の穴が開けられており、折しも西日だったこともあって薄明かるい。手のひらを壁の穴に近づけ、光の線に穿たれようとすると、手のひらに刺さる光は集光されて明確に熱い。