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了/観たものについて書く。

阿佐ヶ谷スパイダース「老いと建築」(吉祥寺シアター)

※上演の内容に言及しています。

 その老女が住む家は中庭があり、まるで要塞のようなつくりとなっている。玄関は建築時からフラットに造っておいたけれど、年を経てあちこちに新たな手すりを加えざるをえなかった。二階三階に至っては、今はほとんど使っていない。
 夫の命日、老女の家を出入りするのは、いまいち頼りない息子とその恋人、険悪な仲の娘、孫ふたり、そしてこの家を建てた建築家の影。家はありし日の記憶とともに浮遊し、組み替えられ、再構築されていく...。

 初吉祥寺シアターかつ初阿佐ヶ谷スパイダース吉祥寺シアター、当然外観は知っていたのだけれど、公立文化施設を目指しているはずという前提に立つとちょっと不安になるくらいの細い道を入ったところに立っていて、これは写真では分からないことだった。パブリックに開かれた空間が、内部に入り込みすぎず建物の表面のみにぐっと絞られてるのも、逆に新鮮だった。
 
 ホール内に入って、階段座席を下りいくと、オープンステージの舞台上に木の床が張られているのが見える。舞台床面とは違う、真新しい家の匂いを思わせる床。中央には大きなテーブル。ははあ、これが事前情報に聞くところの「バリアフリー化を余儀なくされる家」なのだなと思う。
 開幕早々、その家に小片...葉っぱなのか花びらなのか、この時点では分からない...が時間のように降り注ぎ、床へテーブルへと撒き散らされる。モデルルームのように新しく理想化された家は、開演前の時間にしか存在しなかった。ここにあるのはもう、年月を経た家だ。

 デイケア職員の朝岡が、舞台上を歩き回りながら、ここは家のどこで、この部屋には何があって、を説明しだすくだりで、反射的に視覚障がい者向けの舞台説明会*1を連想したのは自分だけではないと思うが、「この語りは空間を整理するものであるはず」という先入観によって、その後の家の拡張と混乱…劇中の言葉によれば「リノベーション」…が、余計とも身体的に迫ってきた。

*1:観劇サポートの一環として行われる。舞台上の位置関係や役ごとの声を、観客に事前に把握してもらうことを目的とする。