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了/観たものについて書く。

東京都現代美術館「クリスチャン・マークレー:トランスレーティング【翻訳する】」「ユージーン・スタジオ:新しい海」「MOTコレクション:Journals 日々、記す2」

※展示構成に一部詳細に言及しています。

 

■クリスチャン・マークレー:トランスレーティング【翻訳する】

 最初の展示室の壁をぐるりと取り囲むのは、音楽レビューの言葉を切り貼りして、ひとつの(こんな音楽があってたまるかと思わせる)文章に仕立てた≪ミクスト・レビューズ≫。そもそも多言語間で翻訳を重ねられてきたこの作品は、展覧会の最後に日本手話への翻訳版として再登場する。折しも最初の展示室でも流れていた≪リサイクル工場のためのプロジェクト≫の音声がうっすらと聞こえる位置、字幕もない無音の映像の中で翻訳されるレビューは、話者の豊かな表現や語りの展開に伴った身体の揺動から、まさに「音楽である」ことが伝わってきて、でも一方で「音楽である」という判断をしているのが("聞こえる"人間である)自分であることに微妙な納得できなさも感じている。

 ≪アクションズ≫(2013-2014)については、会場で解説を読んでも今いち理解が追いつかず、何とか噛み砕こうと数回読み直していた。奔流が感じられる画面構成で、制作過程を考慮せず一枚の絵として見ても魅力的だったのは確かである。

 

■ユージーン・スタジオ:新しい海

 展示室は目に痛いくらいの乳白色で、どことなく浮遊感がある。おそらく展示構成と動線のせめぎ合いに苦慮したのだろうな…と思う箇所が多い(《ゴールドレイン》の部屋の設計はさすがにどうかと思った...)が、(一般的に、展覧会における映像作品はじっくり観ても/観なくても動線上問題ない場所に配置されがちな中、)≪夢≫(2021)が強制鑑賞ルートに組み込まれていたのはちょっと面白かった。

 ≪白馬、冬の池のドローイング≫(2021)は、真鍮の板?にドローイングした作品群の中の一枚で、きらきらとした金属の肌理に冬の朝のような靄がかったニュアンスが重なっていて、本展示内でいちばん好きな、というか展覧会全体にも匹敵するような作品だった。

 

■MOTコレクション Journals 日々、記す2

 前期コレクション展から一部作品を引き継ぎつつ再構成した展示。

 今期から登場した作家の中では康夏奈(吉田夏奈)の空間干渉ぢからが印象的だった。≪花寿波島の秘密≫(2013)は、展示室に吊り下げられた錐の内側に入って鑑賞する作品なんだけど、一回作品の下に潜り込んでから見上げる動作を挟むせいか、海の中で波に翻弄されながら近くの岩崖を見上げた時の圧迫感に似た感覚が生じる。小豆島を模型にした作品群も、特にダム周りの切り立った地形造形の捉え方に(決して快だけではなく)胸を掴まれる。

 

前期コレクションの感想

ry-kun.hatenablog.com