暗窟めいたメインフロアには既に大勢の観客が潜み、その影は思い思いに蠢いていた。天井の高さからフロアへと、青い光が柱状に沈む。光を上へ上へ見辿ろうとしたが、途端横殴りの音に右半身を打たれた。上手側のフロアには、施設備え付けとは異なるスピーカーが組み上げられていた。音に聞く"サウンドシステム"だ。
ダンスミュージックレーベルSPRAYBOXの主催イベントである本公演、二回目を迎える本年は、プロデューサーMattik氏の初来日と共に、eastaudio社*1によるサウンドシステムの導入を目玉として掲げていた。メインフロアの開場前、セッティング中に開閉した扉から漏れ聞こえた「Rumble」ですら既にどすんと重たかったのだから、フロアの内部に響く音は尚更である。(話は脇道だが、セッティング中はThat Fancy I 氏が一階カウンターで開場DJをしていた。ラウンジ環境で聴く「Mind」の音像が好きだ。)
前情報がなければ圧し掛かる音に耐えかねて床を這いずり回るところだが、先立って物販で買った耳栓を装着すると、不思議なことにすべてが夢の中の出来事のように思えてくる。現場の臨場感がないという意味ではなく、身体は確かに震動しているのに、これは夢だからどこまでも身体を酷使できるぞという無根拠でふわふわとした万能感に陥るのだ。実際、今まで夜を徹した経験の中でも、いちばんあっという間に過ぎた夜だった*2。
以下、メインフロアからいくつかの曲を抄したい。
音響を存分に活かしたヘビーな流れにおいて、Carpainter氏の「Working Class Anthem-Carpainter Remix」が軽妙に浮かび上がり、その後ONJUICY氏が登壇しての「PAM!!!」まで弾みをつける。
期待にぎらついた無数の目がブースを見上げる中、魔術的な展開でフロアを揺すぶったGenick&Jacotanuの後半では、「IDWWMT ft.Catrrh Nisin」「Pull Out the Gunfingers」「DAY AND NIGHT」「Reese'n'Warp (VIP)」*3など3MCが集結して次々に掛け合い、さながら歌合戦の様相を呈する。ところで世界一美しい譜面灯はクラブエイジアのブースを照らす譜面灯である。
熱気を引き継ぐNizikawa & Oblongarのセットは、本公演の特典音源の一曲であるところの「I WANT (Oblongar Remix)」でなめらかに滑り出した。むらさきの柔らかい光が落ちる。昨年印象的だった三面スクリーンの映像が無いためかフロアの暗闇は前回よりもいや深く感じられ、しかしその分展開をこまやかに読んだ照明が映える。
最後はSPRAYBOXが来年1月にリリースを控えているという新曲を惜しみなくお披露目したのち、「4AM(Speed Garage Mix)」「New Connection」「What's Luv Bootleg」ほか、にこにこ笑顔のシンガロングで締め括った。
以下個人的な感覚の話だが、そのSPRAYBOXのセット中、ギリ耐えられるくらいの人だかりに呑まれながら、いま自分は視線の壁になっているなあと思ったのだった。場の所産を簒奪する窃視者の自認ではなく、ブース側から投げ掛けられる視線を負けじと押し返す壁のような聴衆として、フロアに立っている。それは非常に貴重な体験だった。
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