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2024年3月/RIP with RoyalーT(CIRCUS TOKYO)

 年度末の就労者として業務その他作業の反復にシコシコ勤しむうち、反動的に思い立って22時を回ってから家を出た。前売券は公演日21時まで購入できたが、当然所持していない。渋谷付近に差し掛かった頃には既に折り返し終電が怪しい時刻に到達しており、これで仮に当日券が売り切れていたなら、始発待ちの渋谷にすすんで身を投げに行っただけの抜け作になるかと思うと、地下鉄に乗っている間ずっと手が冷たかった。

 果たして当日券は存在した。無事収容されたサーカストーキョー地下ではOblongar氏がDJの最中だった。小回りな軸で円を描くような運動...というのは、絶え間なく切り替わる映像に引き摺られた印象かもしれない。コンタクト外れそ~と思った瞬間に目がぐるりと回転する映像が出てきてちょっと笑う。

 高解像度で投影されるなめらかな映像が、ふとインクめいて倒錯したざらつきを帯びる。韓国のクルーPlanet Turboのロゴ(?)だった。ガシガシと垂直方向に掘削するシークエンス。蠱惑的なトラックに挿入されたCatarrh Nisin氏のダブ?を何回もリワインドし、少しずつ少しずつ先を聴けるようになるのが、その日一番というくらいワクワクして待ち遠しかった。

 次がそれこそ公演の数日後にCatarrh Nisin氏との曲を発表していたJacotanu氏だったが、2023年春~夏に矢継ぎ早にリリースしていた曲がたくさん組み込まれていて嬉しかった。以前別分野の文章で「その身体性を行使して観客に音の捉え方をガイドしてくれる人が好き」と書いたことがあるがまさにそのような人で、フロア前方に陣取った人らの動きの影が(おそらく自分も含めて)徐々に演者の身体の跳ね方へと似通っていく様子を見るのは気分がよかった。

 暑さと人にぶつかる不安で体調が参ってきたのでラウンジに上がる。以前訪問した際、一階で酔っ払いに絡まれて不本意に退散したことがあり、ずっと引け目に感じていたので、ラウンジが空いてるうちにそれを払拭したかったのもあった。階段の中途、直角に曲がった踊り場から見下ろした暗く熱気ひしめくフロアには折しもRoyalーT氏が「Rumble」を掛けていて、こんなにも熱帯林の喩えにふさわしい状況もそうないだろうと思われた。

 一階で眠気にぐらついていたところ、Nizikawa氏がぐにゃぐにゃベースの曲を立て続けに/バリエーションある形で鳴らしていて一気に目が覚めた。思わずShazamした曲が見返したら明らかに見当外れで、後日それらしい曲を総当たりして探す。どこかでスウィーニートッドの声ネタが挿入された曲が流れていたいたように思い出される。スウィーニートッドの声ネタって何?

 DJ切り替わりのタイミングで、機材の何かしらなのか手を替え品を替え延々とandrew,なかむらみなみ「Duxi」が掛かっていた。どの程度大変なのか全く分からないため、ブースの向こうが慌ただしかろうが一生ヘラヘラしていられる。目端の利かない人間が状況を心配するには曲が楽天的すぎる。

 Duxi背景の交代劇を制したThat Fancy I氏は、綺麗な曲...多く紗がかった女声を使用した、メロディーが美しく踏みやすい曲...を主体に、ラウンジを終演まで持っていく。That Fancy I,Shunji Fujii「Mind」はつやーっとして音の粒立ちがよく、体感としは今までで一番よい音環境で聴けたかもしれない。ラストで掛かったTakaryu,nyamura「your winter」は概念としての"4曲目"というか、つまり最後を飾るのにふさわしくて、胸から腕をひらくような柔らかさのある曲だ。

 扉の外に出ると、3月らしくだいぶ早朝の寒さもゆるんでいた。身体に時間が付着していて、その余韻ごと持って帰るような心地のまま、動き始めた電車に乗った。