◼️PARADISE AIR オープンスタジオ
に行った。松戸駅はデッキから街の要素がギチギチ詰められているタイプの駅前で好きだ。
パラダイスエアは一般社団法人PAIRが運営するアーティストインレジデンスである。パチンコ屋「楽園」と同棟にある元ホテルというかラブホを利用しており、その痕跡は、見学可能範囲では例えば部屋の入り付近に唐突に突き出た瓦屋根などに確かめられた。
私は舞台芸術制作者オープンネットワーク主催の配信講座(下記記事参照)で登壇していた紙カンパニーprojectの松延耕資氏のお話で、当該劇団の撮影地としてパラダイスエアの存在を知った。
その後色々調べていた際にPAIR代表である森氏のインタビュー記事に突き当たり、そこで語られていた「ないものはないと素直に伝えておく」という言葉に妙な感銘を受け、見学する機会を窺っていたのだった。
まちの寛容性を育むアーティスト・イン・レジデンス PARADISE AIR(パラダイスエア)|千葉・松戸市|omusubi不動産
パラダイスエアには、パチンコホールの自動ドアと隣り合わせの扉から階段を上がっていく。ひーこら昇っている間にホールの喧騒が壁を突き抜けて聞こえてくるも、中腹からふっと静かになる。
オープンスタジオでは滞在中の3名のアーティストの各制作公開...チャール・ハルマンダル氏の研究発表、ムルゲン・ラソッド氏によるインド自然保護区の違法開発を主題とした作品展示、そしてマリケ・ペータース氏による「お化け屋敷」作品の体験...が行われていた。
こういう施設っていろんな種類の椅子を置いてるよなという偏見があるのだが、例えば、待ち時間に居合わせた他の来場者と大きな長ソファに無言で相席しつつ、装飾的な窓の外から届く風や自動車の音に耳を傾けていると、一方的な連帯意識を(相手を侵襲しない程度に)感じ取ったりするから、椅子の選択肢が多いことにもなんらか効能が見出だされてるんだろうと思う。
◼️二十絃箏展 Vol.36(すみだトリフォニーホール)
二十絃箏の演奏家・吉村七重氏が主宰する二十絃箏展(「邦楽展」から本公演より改称)。今回は「委嘱作品を中心に」と銘打ち、1980年代~2010年代に作曲された5作品を紹介している。
一曲目は新実徳英「青の島」(1989,演:坂本ゆり子・丸岡映美・下田れい子・田村法子)。本公演最多の二十絃箏×4面を駆使する曲である。小ホールの舞台幅にぴたっと収まった箏。4面同時の執拗な生指でのトレモロに始まり、演奏者が代わる替わる爪を填めていく導入に至る本曲は、刻一刻と変化する大きな生き物を4人がかりで調伏するようなイメージをもたらす。演奏者が一斉に目線を低め、黙々と絃を摘まんでさやかに奏でるシークエンスなど、視覚的にも起伏に富んでいる。解説によると"南"にある憧れの場所を指すという「青の島」だが、時折曲中には琉球音階の旋律が浮かび上がる。リアルタイムで目の前に織り出される布が不意に翻って、裏地に織り込まれていた別の模様が鮮やかに立ち現れるように。
最後の曲は徳永崇「ワープ航法」(2012,演:田村法子・坂本ゆり子・丸岡映美)。こちらは二十絃箏×2面+十七絃箏×1面の構成。きらびやかで典雅ながら、どこか穏やかでない立体感を張り巡らした導入。中央に据えられた一七絃のフレージングが始まると見るや、そのすぐ後を左右から足早に追いかける(そしてちょっと先に終わる)二十絃のリピート。完全に素人意見だけど、箏は楽器のサイズや演奏者との距離、運指の手つきなどに演奏身体との微細な緊張感が通っている気がして好きだ。
トーコンのYoutubeチャンネルにて後日動画公開予定。