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2023年7月ー10月/ストリップ

※ストリップを取り上げた文章です。性的な話題への直接言及はありませんがご留意願います。

※演目の内容に触れています。

 

◼️7月頭 渋谷道頓堀劇場

 渋谷道頓堀というか浅草以外のストリップ劇場初めてだった。客同士も/客も演者も膝を突き合わせるような距離感で、しかも円舞台は迫り上がる!引きで舞台を眺めた初見は梁が近くてやや窮屈な印象に思えたけれど、座席に着いて舞台を見上げたときの迫力は段違いだ。

 4番目の浅葱アゲハさんと5番目の赤西涼さんが特に良かった。

 浅葱さんの演目は刑事と人魚の二種。それぞれ別種のエアリアルを用意していて、刑事の方はフープだった。この規模の劇場でぐいんぐいんフープをブン回す姿はやはり悪い冗談みたいな美しさがある。撃たれて墜ちたブランコ乗りの、かろうじてフープに引っ掛かってぷらぷら揺れている屍体。

 人魚はひらひらした水色の着物を纏ったファンシーなスタートから、バキバキに身体的で霊感に満ちたシルク(ハンモック?)パートに移行する。吊り下がった布を脚のみに巻きつけて人魚態を表現するくだり、題材と手数の噛み合いによるギアがすごい。

 赤西涼さんは扇子の演目と狐の演目。扇子に真っ白な着物に黒ブーツ、景気のいい音楽に合わせて舞台幅も奥行きも所狭しと踏んでポーズを決める芸者の演目は、ただひたすらに快い。ぱちっとした三日月目は「音楽に合わせて目を開ける」だけでもひとつの身体的アクションとして成立する魅力がある。帯を解きながら花道に向かってぱっと投げたとき、否応がなく喚起される動的なファンタジー

 狐の演目では、その目の魅力が危険でしかし逃れがたいものに反転する。公演通してもっとも印象的だったのは、最終曲のベッドのシーンが終わった後だ。迫り上がっていた円舞台がゆーっくりと客席向かって時計回りに回転しながら演者の身体を降ろす。やがて立ち上がった演者が盆の回転に沿わせるように上手→下手に向かって礼をした時、そのあまりのなめらかさに実際には動きを止めたはずの盆がまだ回っているように一瞬錯覚し、ワンテンポ遅れてめちゃめちゃな興奮に襲われた。

 ストリップ、圧倒的に「演者を観る」ことに依拠したパフォーマンスであることが、普段は演者で観るものを選ぶ意識が薄いとかヘラヘラしてる自分にとって、逃げが利かなくて良いのだと思う。

 

■浅草ロック座9月公演「まつろわぬもの」第1期

 タイトルから想像される通りダークだったり重厚だったりな作品が主軸の公演。1景「土蜘蛛」(桜庭うれあさん)と3景「虫めづる姫君」(花井しずくさん)が特に好きだった。

 「土蜘蛛」はパンキッシュでゴスいベッド着のルックが印象的。躍動的な振付で、ピンヒールの踵でビートを刻み、でもどこかドーリーな端正さがある。バンドカルチャー通ってないからイメージで雑にものを言っているけど、伝え聞く「ファンの女の子が失神する」ような熱狂を誇るバンドのボーカルというのは、たぶんこんな存在なんだろう。腰から上体を折った状態からスルッと盆に滑り込む動作が美しい。浅草ロック座はムービングライトの仕込み個数が客席規模比で言うとあらゆるジャンル横断して最も多い劇場なのでは?と訪れるたび思っているのだが、そのムービングライトが客席全体の幅も奥行きも実際以上に押し広げ、光の崇高さなるものを目の当たりにさせる。

 「虫めづる姫君」演目内の構成が秀逸。キュートなショーパートからディスコティックな再登場で「この幕はポップな翻案なんだな」と観客を油断させておいて、盆に至ってからの毒のあるパフォーマンス。一転、クライマックスはアクロバティックな見得が連続し、見応えのある景だ。ショーパートで履いていた白い編み上げショートブーツと、ある仕掛けの施された緑フリルのベッド着も可愛かった…。

 あと2景の「浅茅が宿」(虹歩さん)は、派手で華やかな1・3景に挟まれた穏やかな演目ながら、ラスト曲のやわらかな詞心で印象が跳ね上がった。盆から本舞台に戻った時、ある歌詞の直前に上体をぐっと反らし、そのポーズのまま歌詞の余韻を迎える場面があるんだけど、数日後原曲に当たった時、もしパフォーマンスを伴わずに聞いていたら該当の箇所は直前の歌詞からの流れでだらっと聴き流していただろうなと思った。分野を限らず、観客に音の捉え方をガイドするためにその身体性を使ってくれる人が一番かっこいい。

 

◼️10月頭 新宿ニューアート

 赤西涼さん「THE」(扇の演目)再見。盆の最後の曲における、身体をスキャンするように頭のてっぺんから一瞬通過していく光がかっこよい。

 巻き戻って2回目1番の黒崎優さんの茶摘み、序盤の牧歌的な選曲に油断していると、しっとりとしたムードでアクチュアルになまめかしい盆へのシームレスな変貌にひっくり返ることになる演目だった。

 そして4番、事前情報から気になっていた桜庭うれあさんのバービーの演目。とにかく動きの手数が多い。単純にステップが複雑で躍動的ということでもあるし、盆でもなにかと1アクション多くて目が離せない。

 1回目の演目もそうだったが、とにかくバラエティ豊かなピンク尽くしの衣装がよく似合う演者である。まさに「主人公の女の子」といった風格。私は切実さを以て「ピンクの似合う」「女の子」になりたいと願ったことはない筈だが、それでも桜庭さんを見ていると「あんな風になりたいと憧れていた女の子」...というか「あんな風になれたら何か変わっていたかなとつい思ってしまう女の子」についての無い記憶が刺激された...まで書いて、心の柔らかい部分が今更波立っている。ランウェイの真っ向から「私を見ろ」と主張する、堂々たるキュートなキャラクター。

 ゆっくりと回る盆の上、手持ちのバッグからお人形遊びめいて小道具を取り出すシークエンスで、バービーが首元に香水を吹きかけると、ミラーボールのちらちらした光が灯って世界と一緒に回り始める。照明で音を表現することは多くとも香りを表現されることってあまりないから、ぱっと印象に残る。