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2023年9月/MOMATコレクション

 国立近代美術館。

 企画展期間入る前に見た。国立近美のコレクション展は明確に企画展の補完と広がりを企図してプログラミングされているから、企画展とセットで見るのが筋だろ...と認識しているものの、企画展の直後にあれだけのボリュームのコレクション展を見せるのは人間の集中力を信頼しすぎだろうとも思う。

 全12室+小企画「女性と表象」。特筆すべきは版画家の日和崎尊夫が一室まるまる使って特集されていることである。近年の寄贈によるもの。鋭く彫り出されたちまい点や線が緻密に並んで襞を成し、やがて小型の宇宙の如きうねりを生み出している様を目の当たりにする。

 私は日和崎のことを埼玉県美「MOMASコレクション たなごころの絵画」(2022)で知ったので、同展で同じく知った宮脇愛子の〈スクロール・ペインティング〉が隣室に展示されているのも嬉しかった。ものごとの表皮をうすく剥ぎ取って広げたような網目と、巻物型の形状がよく似合っている。

 今期最も楽しみにしていた遠藤麻衣×百瀬文の映像作品〈Love Condition〉は二階展示室に入ってすぐのひらけた(つまり通過できる)場所で放映されていた。手だけが映った二人の人間が、粘土を捏ねながら「理想の性器」なるものの形状について話し合う映像。正直この話題で「軸と穴」とか「一対一」とかを問い直すアプローチは予想できる範疇で、だからこそ終盤の「想像力」をキーワードにした性行為のラディカルな読み替えというかブン回しに、安穏としていた自分自身の地盤を切り崩されて食らってしまったきらいがある。その面ではスリリングと言ってもよい体験だった。

 

 展示室では青少年向けの作品ガイドが行われていた。私は、鑑賞教育の一環として「この絵を飾るならどこがいい?」、「自分の家に飾るならどの絵がいい?」といった種類の質問を投げ掛ける意味がイマイチ理解できていなかった(所有を前提とすることがクリティカルな質問に思えないとかナマ言ってた)のだが、最近は分かるようになった気がする。気のせいかもしれない。