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2023年6月/浅草ロック座「REBIRTH」

 浅草ロック座に行くのは久しぶりだった。

 ミュージカルやショークラブの登場する映画が好きだった学生時代の私にとって、2016年頃の女性客によるストリップの「再発見」の潮流の中で知った浅草ロック座は、最もその概念に近しい場所だった。なにぶん田舎学生だったので通うことはできなかったが、ブロードウェイミュージカルの来日公演を観劇するために上京する際は浅草に宿を取って、昼はオーブか国際フォーラムか、夜は浅草の4回目に入る…ということは何度かやった。

 ただ、近年足が遠のいていたのは確かである。ここから隙自語だが、私はノンバイナリ―のバイセクシャルであり、そこに屈託はないのだが、それとは別の話として自分が女性に欲望しうる状況に身を置くことに抵抗感がある(わざわざ不要な補足であるが、これはあくまで自分の内面というか自意識の問題であって、性自認性的指向を理由に他者をある空間から疎外することができるという考えを一切擁護したくない旨は書き添える)。

 「同性の身体」の美しさに憧れや応援をしている女性客の一人のような顔をするのはフェアではなくて卑怯な気がしたし、同じ「女性の身体」を見ているという一点のみで、他の多くの観客と紐帯を分け合えると考えるのはもっと乱暴に思える。上記のような思考の袋小路に陥ったので、しばらくはストリップには行かない方がいいっしょ…と自己判断していた。

 しかし、ストリップを題材とした同人誌『ab-』の無料頒布号を読んで、本件とは別に自分の課題意識として存在していたもののなかなか着手できずにいた「身体的な動きを文字に起こして記録する行為」に示唆を与えられたこと、折しも浅草ロック座で、過去の演目のうち再演リクエストが多かったものばかりを詰め合わせたお得な公演「REBIRTH」が上演中であると知ったことで、その日のうちに浅草ロック座に行ってみようと思い立った次第である。ここまで隙自語。

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 開演前に梅園に寄った。甘味屋において小豆系のメニューと雑煮・うどん系のメニューを両方頼む蛮行を振るったが、その後想定外に午後まるごと劇場に籠ることになったので結果的には正しい選択だった。

※以降、演目の詳細に触れる部分があります。

 

 1景は橋下まこさん演じる、不思議の国のアリスのハートの女王。トランプの兵士たちを従えて踊るM1も楽しいショーパートながら、度肝を抜いたのは演者ソロになったM2以降。ズズ...と花道を進む装置の上、女王らしく(?)開脚した演者が盆に近づくにつれて、花道サイドの客席からは、光の線が角度を変えてその身体に差し伸ばされるのが見て取れ、ライティングの快楽を体感する一瞬であった。盆に至ってからのスウィングなM3では、演者が立ち振る舞うごとに奪われては与えられる心地が連続する。とびきりの媚態を提示された後、間髪入れずに首を掻っ切られるジェスチャーを不意打ちで食らって客席で噎せてしまった...。

 2景白鳥すわんさん演じる酒呑童子源頼光に討たれた彼女が、移動装置によって盆に「流れ着い」てからのM3は、悲嘆という言葉では綺麗すぎる慟哭の場だ。本気で踏み鳴らされる地団駄は、思わず盆から落ちるのではないかと危惧するほど。うつくしく固定されることがよしとされる見得の瞬間でさえ脚は震え、びたんと音を立てて崩れ落ちる。赤い長襦袢の前をはだけながら、身体を大きく反らした時に見えた逆向きの赤い眼球の動き。パフォーマンスとして提示されるにはあまりに強すぎる情動を食らい、悼ましく思いながらも目が離せない。

 3景はののかさんによる「銀河鉄道の夜」。同作の一節を諳じながら伸びやかに踊るM1に、公共劇場の夏休み子どもプログラム的な情緒を感じる。全身金糸銀糸のフリンジ衣装を纏う二人の女性の姿に、北国の夏の夜を走っていく少年たちの姿が意外なまでに重なっていく。カンパネルラと別れてからのM2、青い暗がりの中をオートマティックに滑る円錐上の照明の束が、演者の背中を花道の先端へと押し進めていく様子が美しかった。照明でいうとどこかのタイミングで光の色が青ー黄色から赤く変化して、蠍の火じゃんね...と思ったのだった。

 4景はゆきなさん演じる狐の嫁入り。ゆきなさん、以前観た時も「好きな人とはじめて結ばれる夜」をやっていた気がする。白い打掛を羽織った演者が盆の外に目をやる際、その先には「わたし(たち)」ではなくもっと親密な相手が存在する気がして、「演者と観客」間の視線の交わりによって発生する緊張関係を感じさせない。

 5景は桜庭うれあさん。マリリン・モンローかバービー人形のようなM1から、平成の歌姫とかいわゆる女の子向けアニメの主人公を思わせる(誤解を恐れずに言えば)ガールズパワー的ニュアンスのチャーミングさに変化するM2以降。ファスナーで着脱できるビスチェ衣装が良すぎる。回転する空間に相対して、やわらかく関係性を結び直しながらテリトリーを拡張していく視線の力に惹かれるものがあり、今回の演目内でも特に印象的な景だった。

 6景は空まことさんによるチャップリンの『独裁者』に材を採った作品。例の演説をバックに軍服姿の青年が堅く踊り、花道を踏み、やがて盆に至り土くれを掴むM1。打って変わってM2以降、色とりどりの端切れを寄せ集めたベッド着を掻き抱いて寝そべる開放的なさまに、「自由のための闘争」を思って胸を打たれる。

 7景は真白希実さん演じる巴御前。私の滝沢歌舞伎って6月だったらしいです。景を貫いて小道具として使用される小刀が、恋人から託されたバックストーリーを想起させてドラマチックだった。