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2020年に観たものから(配信・映像編)

新国立劇場「巣ごもりシアター」より『トゥーランドット(2019)』・『ロメオとジュリエット(2016)』(4月・5月)

 『トゥーランドット』:えらいものを観た。オペラって天井がたっかい分舞台が開放的に見える印象があるが、本作に関してはその天井の高さのせいで、真上から降る月光のような照明と、三方囲んだ交差階段のようなセットの圧迫感が増している。後半の、独自的な解釈そのものを視覚化したような御帳台のようなセットも強かった。幕が下りた後、こころなしか客席もざわめいてるように聞こえて、これほど「映像の中の客席」にシンパシー感じたこともないな…と思う。

 『ロメオとジュリエット』:全くバレエの素養がないから的外れな感想かもしれないけど、身体を面と角度で捉え、面と角度を次々と変えていくことでキマる感じが、観るたび新鮮に映る。一番印象的だったのはジュリエットが婚約者を拒絶し通すくだりで、身体を預け合う振り付けの最中でさえ絶妙に顔の角度を合わせず、無機質さを徹底しているところにビビった。

https://youtu.be/RvI5eF7MiiY

 

・範宙遊泳『その夜と友達(2018/STスポット)』・『うまれてないからまだしねない(2019/本多劇場)』(4月)

 『その夜と友達』は、独特な時間の横断と「何かある」から過剰になる語り口がヒリヒリするのに、最後にはぽつぽつとした会話と穏やかな余韻が残るのが印象的な作品だった。『うまれてないからまだしねない』は、舞台となる建物の説明から入る物語が好きなので、冒頭で一気に引き込まれたのと、あとやっぱり「ちゃん付け」のリプライズが強烈だった。

https://www.youtube.com/user/hanchuyuei

 

・エクセンプロヴァンス音楽祭『夏の夜の夢(2005)』(4月)

 正直言ってエッチだった。半野外劇場でおそらく初夏夕べの開放的な雰囲気がまどろむような演目に合っている。緑色の大きな布団で森を、月の大きさで夜の深まりを表現した1・2幕のセットに対して、4幕宮廷の場面のみ衣装の色遣いや月の表現のルールが違うの、「公と私」を感じる。美術もだけど登場人物デザインがすごく良くて、アイシャドウからハイヒールまで同じ青で統一した女王ティータニアや、成人女性が演じているのに少女然としたハーミア、かっちりした見た目で色ボケのヘレナと、特に女性陣がすごく魅力的だ。あとブルーベリーの擬人化みたいなのがいる。

 

・シビウ国際演劇祭/Cicra『CARNIVAL OF THE ANIMALS』(6月)

 「ふつうの」劇場で演っている、おそらくキッズプログラムのサーカス公演で、吊り物とかシンプルゆえの見応えがあった。白黒の衣装がとても可愛いけど、ぱっくり開いた背中から筋肉の陰影が見えるのギャップがすごい。風船ぼんぼん客席に投げ込んだときは、「おかあさんといっしょ」的メソッドは世界普遍…!と感動すると同時に、子供向けプログラムって集中力コントロール難しそうだな~と思ったけど実際の所どうなんだろう、制作している側はさらっとクリアしていることなのかもしれない。

 

神奈川芸術劇場『『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊(2020)』(6月)

 2020年初めに楽しみにしていた公演のひとつだった『未練の幽霊と怪物』の配信公演。

 リモートで演じられた個々人のパフォーマンスを、ひとつの空間に仮想の舞台として仕立てられるか…という試行が面白かった。特に「敦賀」においては、演者それぞれが小さなスクリーンに投影されたことで、淡々とした語り口で背筋の通ったワキと、正体を明かして体を撚らすシテの対比がよりくっきりしていた。

 

・『We are RAISE A SUILEN:BANG Dream! The Stage(2020/銀河劇場)』(7月)

 冒頭の演奏中階段の踊り場に姿を現した花園たえが、ライトの下から暗闇へとひらりと身を躍らせたときのワクワク感、何にも勝るオープニングだ。RASの「世界を変える」という一見大上段に見えてしまう理念を、親元を離れて自分だけの部屋で暮らすロックとレイヤの、身近だけど切実な経験を通して紐解いているのが好きだった。台詞の掛け合いが全部トロみたいだ…と思っていたら脚本綾奈先生で襟を正したよね。レイヤの切々とした演技も良い。

https://youtu.be/_pbo52t7ShI

 

・『Summer Paradise 2020 川島如恵留公演(2020/東京ドームシティホール)』(8月)

 なかなか足を運ぶ機会に恵まれず、結果的にあまり親しみのないTDCだが(2020年に初めて行くはずだったのだがチケットが流れてしまった)、円形ステージを設えて、たまにチラッとステージに沿った配信用カメラレールが映りこむの、ちょっとカワイイやんけ…と思って観ていた。その円形ステージでの「夢のHollywood」独演は、舞台上にたった一人なのに存在感が大きくて、スペースが足りなくさえ見える。円形といえば、同日の『EP1:ROCK』(BSフジ)も、振り付け過程やカメラ計画を見せているところも含めて強く記憶に残っている。下項の『滝沢歌舞伎ZERO』に出てくる回り盆まで含め、かなり円形づいてる数日間だった。

https://youtu.be/VckoxrDkXx4 

 

・『滝沢歌舞伎ZERO(2019/新橋演舞場)』(8月)

 昨年は映画版も公開されたが、この演目の初見となった2019年版Blu-rayを挙げている。というのも、個人的にそれまであまり関心がなかった新橋演舞場の魅力を分からせられる映像だったからだ。たまたま鑑賞前に読んでいた本に「火より水の方が劇場での扱いが難しい」との旨が載っておりふーん…と思っていたのだけれど、その直後に第二部の大立ち回りを観たら、そりゃ歌舞伎劇場、最高!と書きたくもなる。第二部は囃子場を開けてお丸さんを登場させることで、劇場内の「見せる」空間を拡張しているのも好き。

https://youtu.be/b13Nh9aCFYE