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2023年4月/HOUSE DELIVERY、アーティゾン美術館

◼️HOUSE DELIVERY(秋葉原MOGRA)に行った。

 深い時間のMOGRAは初めてかもしれない。暗いフロアにプロジェクターの光が熱く燃える火の粉のようにひらめく。バーカウンターの近くにアフターアワーズのエミちゃんの絵が飾ってあることを知る。一階はいつも混んでいるし、社交の場をよぎる緊張感もあって早々に地下に降りていたから気がつかなかった。

 隙自語乙だけど、2月から労働に伴う変動の只中にいて、終わりの見えないその場しのぎに勤しむ他にない状況に正直疲弊している。慌てて決めた転居先も最初は意に沿わないところばかりが目につき、ひどいときにはそれまでの生活圏にあったスーパーがないだけでナイーブになっていた。そういう時期だったから、多少無理すれば(私は夜起きてるのが苦手だ)生活の合間を縫って遊びにいける場所があること自体が嬉しかった。

 本パーティーはハウスミュージックを主題としている。私はハウスはストイックな人逹の音楽という偏見を抱いており、一方でストリングスやピアノを効果的に使用する華やかで流麗な印象もあって、相殺されてようわからんという認識でいる。

 最後に掛かった曲(WE GOT THE LOVE)はクリティカルに後者で、その日は朝から用事があったから、もう一曲だけ聞いたら抜けよう抜けよう思いながら結局ズルズル居座っていたのだけど、その曲聞いた瞬間最後までいてよかった!と思うくらい多幸感に溢れていた。

 あとCoffe Timeが流れてキャッキャしてたら、周囲にいた方が「アンセムじゃん」と話してるのが聞こえて、アンセムなんだ~と嬉しくなった。

 

◼️アーティゾン美術館に行った。

 ダムタイプ「2022:remap」が開催中である。

 会場は二室の展示室で構成されている。展示室①内はさらに壁で四角く仕切られているが、四方から内外の行き来が可能で、展示室②との間は離れのような廊下で繋がっている。

 初見でこの会場をひとまわりした時の印象が「宮(ぐう)」だった。自由度が高い割に導線を指定されているような感覚に、可動性の高い什器を多用する一方で、方角による意味付けを重んじる平安時代寝殿造を想起する。ただ、展示室内の方向と、世界各地で採取したフィールドレコーディング先との位置関係を厳密に書き起こした会場内配布物を見ると、あながち的外れでもなかったように思える。曲解だよ。

 映像を映す大きな水鏡のようなLEDパネルが安置され、またその周囲を発光するフィーレコの再生装置が取り囲む展示室内では、鑑賞者の「見上げる/覗きこむ」動作が多発する。

 私は、つくる側から/見る側からのアクションを問わず、鑑賞者を客体的な景観に仕立てようとする向きには、は?いつかお前を同じ目に合わすと思いがちである。そんな人間であっても、他の鑑賞者たちが一様に同じ場所を見つめながら、うす白い光を浴びて展示室内に浮かび上がっている場面に立ち会うと、なにか演劇のような、集団的な意図のある身振りであるかのように眼差してしまう。

 下階は、19世紀の海辺の行楽風景を描いたウジューヌ・ブーダン〈トルーヴィル近郊の浜〉が好きだった。わざわざ長い裾のドレスを引き摺って砂浜に踏み入り、社交に勤しむ人々を引きで見てるのエッチだ。現代日本人の想像する「海沿いの行楽地」ほど気持ちよく晴れているわけではないが、日射しの明るさが感じられる天候が、油彩のツヤッとしたテクスチャに乗っているのもよい。