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2023年9月・10月/補遺

◼️「ワッチャ!リーディング!マジック!」(一ツ橋ホール)

 アニメ「ワッチャプリマジ!」の朗読公演。表回りのスタッフワークがオタクイベント向きではない会場の取り回しにおいて的確というか、非常に判断が早い。脚本も出演者も足腰が強い印象。ぱたのが舞台向きのパキッと響く発声をしていてかわいかった。

 

◼️自転車ですっ転んだ。

 幸いにも単独だったのと、全身したたかに打った割に身体的な外傷は膝擦りむいた程度だったので、とんだ厄落としだと騒ぐだけで済んだのだが、なんらかの呼び水にはなったのか、以降目眩や頭痛を自覚することが増えた。ちょうど誕生日直前の出来事だったのだが、ここニ・三年がこれまでの人生の中で身体をいちばん血が通ったものとして望み通り動かせている感覚があったところ、その時期が終わりを迎えたらしいことを思い知る。職場で倒れた元上司を思い出し、怖くなって少し泣く。

 

◼️北海道に行った。

 宿を取っていた銭函に着いたのは夜だった。宿までの道中、雲間から見え隠れする月は煌々と明るく道は暗く、通りを挟んですぐ向こう側にある見えない海からいきおいよく波が砕ける音だけが聞こえてくる。風の強い夜だった。やっと見えてきたホテルのライトアップされた外壁に、風に煽られた電線の影が大写しになって揺らめいている。警戒と昂奮が一気に煽られて体表が総毛立つ。

 真夜中は雷音を聞く。

 翌朝は隣の朝里駅に向かう。函館本線銭函~朝里~小樽築港間において車窓のすぐそこまで迫る海が好きだ。冷たいみどりの海、極細のタッセルがばらばらに雪崩れるように砕かるる波飛沫の白。

 朝里で電車を降り、線路沿いの道を歩く。近寄ることはできないが、線路向こうの浜に茂るハナマスの赤い花やまるい実が見えた。早朝まで雨が降っていたせいか、線路沿いに植生する草木の葉一枚に至るまであらゆるものがクリアで、すべてが秋の澄んだ光を受けて輝いている。今年はもうこれ以上に美しい日は訪れないだろうと予感する。

 他には札幌駅のアイスケーキを食べたり、北菓楼のシュークリームを食べたり、札幌の地下歩行空間で台湾の先住民に取材した映像作品〈ILHA FORMOSA〉(空族,2023)を見たりした(挿入されていた「殺猪日」という現地アーティストの曲が、口琴を取り入れたサウンドで好きだった)。再開発のただ中にある札幌の市街地は最後の訪問からだいぶ様相が変化していたが、札幌駅南口に敷かれた白い石畳からの目が灼けるような照り返しは変わっていなかった。新幹線より先にどうにかしてほしい。

 新千歳に戻る前に立ち寄ったサケのふるさと千歳水族館は、ちょうど遡上の季節だったので、川の中を覗く観察窓の見ごたえがあった。一面のサケ。

 

◼️アドミュージアム東京に行った。

 自分が生まれる前のCMって、教科書的知識として社会現象になったことは認識していても、実映像を見る機会はあまり無いので、その手の有名広告を一覧にできるのが新鮮だった。必然的に映像展示が多いミュージアムだが、同行した友人が映像を順路通り全部観るタイプだったので、誠実な人だなあと思った。私一人だと、早く展示の全容を把握したいがために映像飛ばしがち戻りがちだから。

 江戸時代の出版文化が好きだから展示厚くて嬉しい。蔦屋重三郎ほか版元や戯作者を現代クリエイティブ産業のインタビュー風に見立てて紹介した映像は正味しゃらくせえ!と思ったが、切り口として適正ではあると理解している。浮世絵に仕込まれた「仙女香」(当時使われていた白粉の商品名)の文字を見つける展示に入れ込んだ結果、全然関係ないセクションでも展示内容より先に仙女香が目に入ってくるようになった。