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2023年11月/補遺

◼️国立新美術館「大巻伸嗣 真空のゆらぎ」を観た。

〈Liminal Air Time ―真空のゆらぎ〉(2023)は24×41×8の巨大な展示室の幅いっぱいにポリエステルの大きな布が懸けられ、圧倒的な量感をもって絶え間なく波打っている作品である。

 その形状に見出だされるのは海だ。*1白く透けるポリエステルの波と、海底からまっすぐに横たわるブラックボックスの浜。暗闇に眩んでふらふらと近づいても決して濡れないし、膨らんだ波が目と鼻の先まで迫ったところで足元にすら届くことはない。

 自分は「夜の水域に入水したらどうなるんだろう」という興味があり、しかし実行したら酷い目に合うのも分かりきってるので、橋の上から暗い川を眺めたり市民プールの夜間開放に通ったりしてちまちま欲望を解消してきたのだが、それが昼間の六本木にて急に叶えられた。夜の海への憧憬が空想の中で膨らんだのであれば、それを現前するのはむしろ布とブラックボックスが孕む上演の空気であったのかもしれない。

 その場に屈んでポリエステルの裏から海を見上げる。布の表面がゼリーのようにたわむ。送風が途切れた布の端が一瞬萎んでなびく。天井近くのライトから差し込む擬似的な月光が布の表面を滑り、時折通過して黒い「海底」に落ちる。

 

◼️「魔の巣」(武蔵野芸能劇場)

 漫才とコントの違いもいまいち分かっていないが、つまり特定の時期だけ漫才を見る行為を羞じる感性も持ち合わせていないため、最近はM-1の動画をちまちま見ている。そこで知った十九人が、なんか舞台上でフルパワーに身体してて逆にへろくなる感じが印象的で、ふらっと見られるうちに一目でも劇場で見てみたいと思い立った。ので行った。武蔵野芸能劇場。武蔵野文化生涯学習事業団の文字詰めチラシ、その気がない場面で見かけると毎回ウケて手に取ってしまう。

 初めて観る人が次から次へとネタを披露して捌けていくので、正味その場で名前を憶えておくのは難しいのだが、数日経ってからふとした時にあ~!そういえばあの人良かったな~!と思い出したりする。中盤から急に中国の艶笑譚みたいなエピソードトークを始めた人が面白かった。目当てだった十九人は最初に登場した。まだ場に馴れず構えができていないうちに観ると素でびくついてしまう程、声も挙動も跳ね上がっていた。

*1:タイトルや配布の解説においては、明確に水のイメージが仮託されている作品ではない。